判例は101条1項を適用して、96条2項の規定にもかかわらず、丙は常に取り消し得るとする。
しかし、101条1項は代理人の意思表示に瑕疵がある場合を定めたもので、代理人が詐欺を行った場合には適用されない。
本問は、96条2項・3項の問題として処理されるべきである。
では、乙の詐欺は96条2項の第三者の詐欺と言えるか。
否定すべきである。
確かに、代理人行為説では甲は96条2項の「相手方」にあたると見るのが論理的かもしれない。しかし、この場合に代理人行為説を形式的に貫くことはできない。
即ち、本人たる甲は代理人の事務処理によって利益を享受する地位にあって、代理人の詐欺によるリスクを享受すべき立場にあることを考えると、丙は甲の善意・悪意にかかわらず取消し得ると解すべきである。
また、甲は96条3項の第三者に該当すると言えるか。否定すべきである。何故なら、96条3項の趣旨は詐欺と無関係の第三者を保護することにあるが、代理における本人は代理人の事務処理の効果を全面的に享受しており、代理人と無関係な第三者とは言えないからである。
以上により、丙は甲の善意・悪意にかかわらず、本件代理行為を取り消す事ができると解する。
以上